スペインのマナーとは?スペイン旅行で知っておくと便利なマナーの話」で、日本とスペインの一般的なマナーの違いを紹介したが、スペインのレストランについても、日本とはかなり異なる点が多い。今回は、営業時間や知っておきたいマナー、チップについての習慣など、簡単について紹介しよう。

スペインの旅の楽しみのひとつは、スペインの美食の数々。
ということで、今回は知っておけば、それらのスペインの食文化をより楽しめるレストランの風習について、できるだけわかりやすく解説してみるようと思う。
前述のマナー編とあわせて、ぜひスペインへの旅の参考にして欲しい。

最大の違いは食事時間

ご存知のようにスペインの食生活は、日本のそれとは大きく異なる。
中でも最も大きな違いは、食事時間だ。
バルは一日中営業しているところも多いが、基本的にレストランは昼は14時前後から16時頃まで、夜は20時から24時くらいまでの営業が一般的だ。
そして、一日でメインとなる食事は14時からの昼食で、一日の食事のなかで、時間を最もかけるのもこの昼食だ。セナと呼ばれる20時以降の夕食はやや軽めに済ませる。ちなみに、スペイン人はパエリアは昼間に食べることが多い。

14時といえば、日本人にとっては、とっくにランチを済ませて午後の観光を始めているはずの時間で、この時間にメインの食事を1時間以上もかけて食べるのはなんとなくもったいないと感じてしまうかもしれないが、多くの地域では、ショップや観光スポットもシエスタと称する昼休みに入ってしまうので、閉まってしまったり、電車やバスなどの本数も少なくなったり(地方だとそもそも便がない場合もある)、スペインでこの時間に行動するのは非常に効率が悪い。
「郷に入っては郷に従え」の言葉の通り、無理なく旅のスケジュールを進めるためにも、できれば逆らわず、のんびりスペイン式に従ってみる方が楽な場合が多い。

あとは、8月は夏季休業するレストランも多いことも覚えておいたほうがいいだろう。
レストランが決まっている場合には、事前の確認もかねて予約をしておくほうが無難かもしれない。

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レストランのどこへ案内してもらう?

では実際にレストランへ入ってみよう。
カウンターのあるバルエリアがあるレストランでは、店内に入ると、カマレロ(ウェイター)がまず「¿Para comer? (パラ・コメール?食べますか?)」と聞いてくるはずだ。
勿論、レストランへは食べるために来ているに決まっているので、とまどってしまうかもしれないが、これはカウンターなどで飲み物だけを飲むか、あるいは軽めにつまむだけなのか、コメドール(食堂)でテーブルに座って落ち着いて食べるのか?と、案内先を確認しているのだ。

Sí (シ、はい) と答えて、奥のコメドールへ案内してもらう場合、特にある程度の格式のあるレストランの場合には、飲み物、前菜・メイン、デザート、コーヒーを注文することが求められる。
逆に、ごく軽めにグラスワインを一杯飲みつつ、二人で1-2皿をシェアして摘むだけで済ませたい、という場合には、「No, solo para beber. (ノ、ソロ・パラ・ベベール、いいえ、飲むだけです)」、あるいは、「No, solo para picar. (ノ、ソロ・パラ・ピカール、いいえ、つまむだけです)」と答えて、カウンターへ行こう。

ちなみに、食堂でもカウンターでも室内は禁煙だ。喫煙派は外のテラス席へどうぞ。
ただし、テラス席はメニュー表が異なり、室内で食べるより価格が高くなる場合があるので注意が必要だ。

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マドリードで肉食を堪能したいなら、「Asador Real」へ。夏はテラス席も気持ちいい。

一般的な食事の進め方を覚えておこう

今回はレストラン編なので、コメドールで食事をすることを選んだとして話を続けよう。
ある程度の格式のレストランでの一般的な流れは、次のようになる。

まずは最初の飲み物を注文し、その後、料理の注文、そして食事が終わった後に、あらためてデザートを注文する。デザートの後に、コーヒーを注文する。それが終わると、チュピート(食後酒)を薦められる場合もある。逆に言うと、スペインのレストランのウエイターたちは、この流れに沿って仕事をしているので、それを知っているとお互いにスムーズに食事を進めることができる。

つまり、最初からすべて選ぶ必要はなく、席に着いたら、まずは食前酒にあたる一杯目の飲み物だけを選べばよいのだ。その一杯目がくるまでに、メニューに目を通して何を食べるか決める。このときに、デザートまでは考える必要はない。前菜にあたる野菜などをつかった軽めの一品、メインにあたる肉や魚などから一品ずつを選ぶのがスマートだ。よくわからない場合は、注文した飲み物を持ってきたウェイターに質問するのもいいだろう。

基本的には、レストランでは一皿ずつサーブされるので、前菜を食べ終わらないと、次のメインが運ばれないことが多い。量が多くて食べきれないときは、「Terminado(テルミナード、終わりました)」と伝えると皿が下げられ、次に進むことができる。
メインが終わった段階で、あらためて「¿Postre? (ポストレ?、デザートは?)」と聞きにくるので、デザートを食べる場合はデザート、そしてコーヒーへと進めばよい。デザートやコーヒーなどが不要な場合には、「No gracias. (ノ・グラシアス、いいえ結構です)」と答えて食事が終了する。

この流れは、格式のあるレストランでも、比較的カジュアルなレストランでもほとんど変らないので、覚えておくと便利だ。

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マドリードのウエルタスで美味しいムルシア地方の米料理が食べられる「El Caldero

意外と時間のかかる精算

食事が終わったら、「La cuenta, por favor. (ラ・クエンタ、ポルファボール、お勘定お願いします)」と言って精算をお願いしよう。
スペインのレストランは、ほとんどの場合、テーブルで精算が行われる。クレジットカードの場合も、カードリーダをテーブルまで持って来てくれるので、そこで支払いが行われる。

そのタイミングで、「¿Chupito? (チュピート、食後酒は?)」と聞いてくる場合がある。その場合は、多くの場合には店側からの好意のサービスで無料となっている。食後酒はアルコール度数が高いので、自信のない人は「No gracias. (ノ・グラシアス、いいえ結構です)」と答えよう。食後酒にチャレンジする場合は、どの種類を飲むのか聞かれる。葡萄の皮の蒸留酒オルホ、ハーブを漬け込んだイエルバ、果実を漬け込んだパチャランなどが定番だ。

ここで注意して欲しい点があるとすれば、実はテーブルでの清算は思っているよりも時間を要する、ということだ。つまり、ウェイターに勘定をお願いする。明細をテーブルに持ってくる。お金、もしくはクレジットカードを明細のトレイに置く。ウェイターが取りにくる。現金の場合はおつりを持ってくる。クレジットカードの場合は、カードリーダーをテーブルまで持ってくる。と一連の流れには思っているより時間を要する。ましてや、レストランが混雑している時間でなかなかウェイターが来ない場合にはさらに時間がかかってしまうので、電車の時間など、旅の途中に次のスケジュールが迫っている場合には、イライラと焦ってしまう場合も多い。

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毎週火曜日のパエリアのランチがお勧め「ラ・マール

そこで、急いでいる場合には、デザートなど最後の注文と一緒に、「La cuenta, por favor. (ラ・クエンタ、ポルファボール、お勘定お願いします)」と言ってしまうのも手だ。現金の場合は、お釣りが出ないように置けば、すぐに席を立つことも問題ない。細かなコインのお釣りは、チップとして置いて行くのでばれば、同じようにお釣りが来るのを待たずに席を立つことができる。
クレジットカードでの支払いの場合は、勘定をお願いするときに、「con tarjeta. (コン・タルヘータ、カードで)」と伝えておくと、気の利いたウエイターであれば、勘定と一緒にクレジットカードリーダーを持って来てくれる場合もある。(残念ながらそうでない場合もある。特に忙しいと、通常通りの流れでしが対応できない場合もあるので、許してあげて欲しい。決して悪気があるわけではないのだ。)

スペインでのお勧めのクレジットカード&現金引き落としの方法については、「スペインでの「お金」、お得な両替の方法は?」を参考にどうぞ。

いくら払えばいいのか、チップ問題

最後にチップについて触れておこうと思う。
日本にはチップの習慣がないので、レストランでのチップをどうすれば良いのか戸惑う人も日本人も多いと思う。
中には、ウェイターの給料がほぼチップでまかなわれているため、客がチップを支払うことが不可欠な国もあるのだが、スペインの場合にはそういうシステムではなく、義務だとは考えられていない。あくまで、サービスに対する気持ちなので、あまり大きな額は必要ないし、総額に対して何%などと面倒なことを考える必要もない。細かなことにはこだわらず、半端な金額を切り上げてお釣りを受け取らない、あるいは、お釣りの一部を置いて行くので充分だ。
クレジットカードの支払いの場合は、半端分を切り上げた金額で清算をお願いするか、あるいは清算後に少しチップを置いて行く。

ちなみに私個人のチップ額を参考にしてもらうならば、レストランでの食事の場合は一人1ユーロほどが基準で、食後酒やワインなど店側がサービスしてくれた場合には、少し多めに置くことにしている。

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ギネスブックにも認定されている世界最古のレストラン「Botin」の名物子豚の丸焼きコチニージョ。

文化は食にあり!スペインのレストランを楽しもう

さて、このようにスペインのレストランのマナーについて紹介してみたが、「スペインのマナーとは?スペイン旅行で知っておくと便利なマナーの話」でも触れたように、最も大切なのはやはり楽しむことだ。スペインのレストランは、そこそこ高級なところであっても、食事が始まれば気さくでリラックスできる雰囲気のレストランも多いので、基本的にはあまり気を追う必要はない。
マナーなど知らずとも楽しめる人はそれはそれで問題ないが、自分だけが楽しむだけでなく、周囲に迷惑をかけるようなことをしていないか常に気を使う礼儀正しく心優しい日本人には、現地のマナーをある程度知っている方が安心して楽しめる、という人も多い。
そんな人たちにもスペインのレストランを心から楽しんでもらうために、この記事が少しでも役に立てれば幸いだ。

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スペインの豪華列車「アル・アンダルス」内の食堂車。