ワーキングホリデー制度の適用まだまだ先?

2017年4月5日、スペイン国王夫妻の日本訪問にあわせて、いよいよ日本とスペイン間のワーキングホリデー協定に署名がされた。

4月7日現在で分かっていることは、

  • 対象年齢は18歳から30歳
  • 期間は一年間
  • 滞在許可の更新、在留許可の変更は不可
  • 被扶養者の同伴は不可
  • 一定以上の経済的証明が求められる(金額はまだ不明)

あたりで、具体的に

  • ワーキングホリデー査証発給の定員数
  • いつから募集、適用されるのか?
  • どのような種類の働き方(期間、職種、契約の種類、社会保険の適用など)が可能なのか?
  • 申請時に証明すべき具体的な金額

あたりについては、まだその発表時期も含めて明らかになっていない。スペインブロガーのたろうさんの記事によれば、実際には実務上の調整に半年から一年ほどの時間がかかるという情報もあるし、実際には、2018年が日本スペイン外交関係樹立150周年にあたっているので、これにあわせての適用開始になる可能性も高そうだ。
どちらにせよ、これら制度の詳細については、未発表なため現時点で議論できることはあまりないので、発表を待ちたい。




スペインへのワーホリの是非

今回のニュースについてのインターネットでの反応を見ていると、待ちに待ったこのニュースにスペイン滞在の実現に喜ぶ人たちがいる一方で、「スペインの失業率や賃金の低さを見れば、そんな甘くない!」というコメントもぼちぼち見られる。

とはいえ、このワーキングホリデー制度は、スペインに滞在してみたい若者の選択肢を大きく広げてくれることは確実だ。具体的にこのワーキングホリデーを利用して、どのような滞在の可能性か、今のスペインの状況も踏まえて考えてみた。

アンダルシアのバル

自由度の高い留学としてのワーホリ

これまでのスペイン語でもその他の勉学でも、スペインで留学したい人のビザ申請のためには大きな制限があった。
スペイン語の語学留学をしたい人は、現地で更新可能な長期学生ビザの場合、認定校で一定以上の授業時間、かつ半年以上の授業登録が必須とされ、あらかじめ全額の支払いを語学学校から求められる。ほとんどの場合キャンセルしても返金はないので、実際に行ってみたらその学校が自分に合わない、もしくは別の都市に引っ越したいという場合にもフレキシブルに対応することは難しかった。
その点、ワーキングホリデーを利用すれば、事前に学校の登録は必要ないので、現地でまず無料体験レッスンや1-2週間レッスンを受けてみて、自分にあった場所を探せたり、その時々のレベルや興味の分野によって学校を変更できるのは、大きなメリットになる。

また、スペインで勉強したい分野にビザ申請に有効な申請書を出せる学校がなかったり、個人的な師匠について修行したい、という人にとっても、今回のワーキングホリデー制度は朗報だ。これまでは諦めるか、あるいは不必要でも語学学校などに登録する必要があったが、1年間という期間限定ではあるが、学生ビザの要件から自由になれるメリットは大きい。
私がこれまで知っている例では、サッカーなどのスポーツ留学、音楽や絵画、デザインなどの芸術分野、フラメンコ留学などの人がこれにあたる。

デメリットは、とにかく期間限定で現地での更新、滞在資格の変更は不可なこと。一年後さらに継続したい場合は、一度帰国して正式に留学の手続きを踏む必要があるが、少なくとも一年目は自由だし、1年間、現地の状況を知った上で正式な留学を続けるのかを判断できるメリットは充分にあると思う。

就職活動にむけたインターンとしてのワーホリ

「将来はスペインで働きたい」と居住労働許可の取得に向けてのビジョンを持っている人は、どのようにこの制度を利用できるだろうか?

ここでは、二通りの想定を考えてみる。
まずは、何か特定の分野での高度な専門性を持っていて、スペイン語か英語は仕事をするのに問題ないレベルだ、という人。こういう人は多分、ワーホリを利用せずとも、普通に企業にCVを送りまくって専門職のポストを勝ち取る可能性はあるが、スペインの企業の場合、まずインターンをして、その後正式に契約をもらえるというパターンが結構多い。その場合、労働許可を持っていないことは大きなハンデになりそうだが、もしかしたらこれをワーホリ制度が解決手段になるかもしれない。
ただし、私の知っている修士持ちの優秀なスペイン人技術者が、何年もインターンとして安い報酬でこき使われている例もみてきたので、あまり楽観視はできない。キャリア形成として、スペインという場が向いているのか?という問題もなくはない。スペイン人でも優秀な若者が海外へ流出しているのは紛れもない事実だ。

そして、もうひとつは、そういった専門性はないが、何でもいいのでまずは仕事が欲しい、という場合。これは、とにかく日本での職歴以外にも、スペイン語力が鍵となってくる。日本語対応要員として雇われる場合でも、スペイン側のスタッフとのコミュニケーションの必要性が皆無、ということは考えにくいので、最低でもDELE B2レベルは求められる可能性はある。ちなみにスペインでは西検は知名度がなく、まずほとんど評価されないので、現地での就職活動をするのならばDELEをお勧めする。実際のワーホリ開始には、まだまだ時間がかかりそうなので、日本にいる間にB2取得を目指すのもいいかもしれない。
B2は難易度が高いと感じる人もいるかもしれないが、ワーホリが始まればスペイン語学科卒やスペイン語圏の留学経験者とポストを争うことになる。そのあたりをにらんで、準備できることはしておくに越したことはない。DELEは実践的なスペイン語が重視されるので、日本で準備しておいてスペイン滞在中にB2取得を目指すのもありだろう。スペインでの生活を不自由なく送るためにも、DELE B2レベルは決して高すぎる目標ではない。たとえ大都市であっても、英語は思っている以上に通じないことは覚悟しておこう。

そして、どちらの場合でも、問題なのは、ワーホリの間は雇ってくれたとしても、「それが雇用の本契約につながるのか?」という疑問になってくる。これまで「学生の滞在資格の切り替えができる3年まで待てば、本契約に切り替えるから」という甘い言葉で利用してくる雇用者もいるし、悪気がなくとも外国人へ新規の労働許可申請の困難さを知らないスペイン人雇用者が気軽に「雇ってあげるよ」と言って、その後現実の面倒さを知って、手のひらを返すパターンも死ぬほど見てきた。ワーホリでも類似の事例は、おそらく多発するに違いない。
ただし成功例も皆無ではない。ワーホリの1年間を最大限に利用して、チャレンジする価値はあるかもしれない。




フリーランス、自営業者としてのワーホリ

ワーホリ滞在資格で正式にフリーランスや自営業者としての働き方が可能なのか。これは制度の詳細が発表された後でなければなんとも言えないが、もし可能であれば、実は仕事の可能性はぐっと広がる。一つの企業に雇用されなくても、自分自身でクライアントを直接探し、直接報酬を受け取ることも可能になる。
問題は、日本で自営登録したままでOKなのか(つまり日本の住所宛のまま請求書と領収書が発行できるのか?)、あるいは、スペイン側での自営登録が必要なのか、それが可能なのかが、大きな鍵になりそうだ。
というのも、スペインでは領収書発行が納税番号と共に厳密に管理されているので、この請求書なしの支払いは、ネグロと呼ばれるブラックマーケットで違法とされる。(勿論、現実にはこのようなやり取りは多く行われているが、違法である以上、キャリアとして公表はできない。)

もしフリーランスとして働くことが可能であれば、日本からもらった仕事のリモートワークだけでなく、在スペインの企業や個人に営業をかけて、仕事の可能性を探ることもできる。

自分の得意分野やキャリアをうまく生かして、例えば、

  • 書道や折り紙、日本料理などの日本文化クラス主宰
  • 日本企業のスペインでの代理営業
  • 日本の都市や観光施設と契約して訪日観光のプロモーション
  • スペイン側の企業へ日本人向けの集客プロモーション

ワーホリでは1年後の延長や滞在資格の変更はできないので、「店を開く」などのような初期投資が大きいものは向かないかもしれないが、大掛かりな機材などが不要で、レンタルスペースなどで実現可能なものなどは、チャレンジが可能そうだ。

そして、結果がでるなら、将来性がありそうなら、あらためて本気でスペインでの起業や独立を検討すればいい。そのための試金石として、ワーホリの1年を利用するのも楽しそうだ。(ただし、このスタイルの働き方がワーホリで許可されるのかは、現時点では不明。詳細な制度の発表を待って、必要であれば大使館などへの確認が必須。)

スペインでは毎年、観光や食など様々な国際見本市が開催される

そもそも長い休暇としてのワーホリ

ここまでは、ワーホリをどのように過ごすかについて、ハードな目的があることを前提に書いてきた。しかし「壮大なハードル」と「高い目的意識」が必ず必要かといえば、必ずしもそうではない、と私個人は思っている。
勿論、周囲の人に「なぜスペインへ行くのか」を納得させるためには必要かもしれないが、所詮その程度だ。未成年で保護者の責任が問われる、もしくは親にお金を出してもらう場合には、誰かを説得するためにしっかりした目的とプランの設計が必要かもしれない。しかし、20歳を超えた大人が自分のお金でどのように過ごそうが、合法である限りは、本来は他人が口を出す権利はない。というより、口をだしてくる人がいたとしても、それを聞いて従うか従わないかは、本人次第だ。

ということで、「ワーキングよりもホリデー」派も個人的には大賛成だ。チャンスがあれば経験をつむ意味でも働くけど、基本は休暇、というのは、ワーキングホリデーの本来のスタイルでもある。

私個人の意見としても、単に滞在のお金をまかなうためにスペインで安い賃金で働いたり、家に閉じこもって日本からの仕事を黙々とこなすくらいなら、その分期間を短縮しても思いっきり遊んだほうが賢いのでは?という気もする。
そうならないためにも、しっかりと出発前に資金の準備をしておくことは大切だ。せっかくのスペイン滞在なのに、お金の制限のために行きたいところや、やりたいことが制限されるのは、とてももったいないと思う。まして、日本と異なり、基本的には時給仕事のないスペインでは、気軽にアルバイトが探せるわけではないし、スペインでの稼ぎを前提にしていていると、悪い労働条件でも辞められなかったり、ブラック(正式契約なしで現金払い、税金も社会保険もなし)での労働を提案されても断れなくなったりしかねない。ちなみにブラックの場合、仕事中の怪我や病気も保障されないし、給料未払いで踏み倒されても訴えることもできないなどのリスクがある。確かに雇用契約は面倒だが、被雇用者を守るためのものでもあることは忘れないで欲しい。

そんなことよりも、せっかく何でもしていいのであれば、「とにかく毎週、レアルマドリード(バルサでもいいけど)のホームゲームをスタジアムで見たい」「いや、それどころか練習場を覗きに行きたい(公開していないチームもあるけど)」とか、「スペインの全ての州に住んで友達を作る」とか、「日本のタコ焼きをスペインで広めたい」とか、ワーキングホリデーでないと絶対にできない過ごし方にチャレンジする方が、実は価値があるのではないか、と思ったりもする。

セビージャの春祭り

自由な目的で滞在してもいいというただ一度だけの権利

というのも、実はこれまで「ただスペインに滞在したい」という場合でも、必ず「通学、就職、結婚」などの何らかの、しかもかなり厳密な義務に縛られてしまっていた。日本人が何もしないことも含めて、自由な目的でスペインに滞在することは一切許されなかったのだ。
それが、今回のワーキングホリデー協定締結により、一年という期間限定ではあるが、「あらかじめ滞在の目的を限定しなくても、一年かは自由にスペインに滞在してもいい」という素晴らしい権利が、これからの若い人には生涯に一度だけ与えられるようになったのだ。
これを活かさない手はない。本当に30歳以下の人が羨ましい。だからこそ、他人の考える「こうあるべき」に縛られず、自由な発想とチャレンジ精神で、どんどん新しいことがここから生まれるといいな、と期待もしている。

日本・スペイン間のワーキングホリデープログラムの可能性について、今回書きながらいくつか思いついたことがあるので、そのあたりはまた近々整理して書いてみたいと思う。

スペインのボデガ(酒蔵)