リーガ・エスパニョーラのレアル・マドリードが優勝した際にファンの前で盛大に祝賀イベントを行うことでも知られたシベーレスの女神の噴水は、マドリードのシンボルのひとつだ。優勝時には、チームのキャプテンが女神像にタオルマフラーを巻き、キスをする瞬間はセレモニーのクライマックスだ。

実はこの有名な女神像の噴水は、ちょっとした謎を含んでいることをご存知だろうか?

シベーレスの女神と二頭のライオン

そもそもシベーレスとは、アナトリア(小アジア)で生まれ、古代ギリシア・古代ローマでも崇拝された大地母神キュベレーのスペイン語読みで、この噴水は1782年、カルロス三世の時代にベントゥーラ・ロドリゲスによって設計され、大地母神シベーレスの女神像は彫刻家フランシスコ・グティエレスによって作られた。この女神の噴水を中心に、シベーレス宮殿(コムニカシオネス宮殿)、スペイン銀行本店、ブエナビスタ宮、そして、ちょっと怖い怪談のあるリナーレス宮殿が隣接しており、マドリード市内でも最も壮麗な建築が一望できる必見のビュースポットのひとつだ。

このあたりまではわりと良く知られているのだが、シベーレス女神が乗る戦車は二頭のライオンがライオンには名前があり、アタランテとヒッポメネスというのは、マドリレーニョたちの間でも意外と知られていない。




女狩人アタランテと求婚者ヒッポメネスの競走

アタランテはギリシア神話に登場する女性で、男子の誕生を望んでいた父王によって、生後間もなく山に捨てられてしまうのだが、哀れに思った女神アルテミスが雌熊を遣わし、アタランテは雌熊の乳を飲んで育つ。そして成長した彼女は、女神アルテミスと同様に純潔を守る一歩で、狩りの名手として名をはせていく。
美しく強く成長したアタランテのもとには求婚者たちが押し寄せることになるのだが、未婚を貫きたい彼女は求婚者たちに対し、「競走を行い、彼女自身に勝利すること。競走に負ければ死を」という結婚の条件を出す。ところが、地上で生きる者のなかで最強の俊足を誇るアタランテに勝てる男性はなく、挑戦者は先にスタートを切るにも関わらず、多くの若者たちが敗北し命を落していった。
そこで、求婚者のひとりヒッポメネスは、愛と美と性をつかさどるアフロディーテ女神に祈りを捧げ、アタランテに勝利するための知恵と三つの黄金の林檎を授けられる。

このエピソードは、プラド美術館所蔵の「Atalanta e Hipomenes(アタランテとヒッポメネス)」という一枚の美しい絵に描かれている。

Atalanta-e-Hipomenes-de-Guido-Reni

曰く、挑戦者ヒッポメネスは、アタランテが追いつきそうになるたびに黄金の林檎をひとつ投げ、アタランテがそれを拾う間に走って先行する。これを3度繰り返し、とうとうヒッポメネスはアタランテに勝利し、二人は無事に結婚するのだ。

しかし、その話には後日譚があり、結婚した二人はキュベレー女神の聖域を汚してしまったために、怒った女神によってライオンに姿を変えられてしまうのだ。それで、キュベレー女神が従えている二匹のライオンは、アタランテとヒッポメネスとされている。

もうお分かりだろうか?
キュベレー、つまりシベーレス女神の従えるライオンは、神話に従うのならば、雄と雌の一頭ずつでなければならない。ところが、シベーレス広場の女神が率いる二頭のライオンには両方とも、たてがみがある雄ライオンの姿をしている。
これについては理由はよく分かっていないようだが、単に美的な問題でよりライオンらしいタテガミをなびかせた姿をしているとか、そもそも古代ギリシア人の考え方では、人間のときの性別には縛られないという説もあるようだ。

シベーレス広場とプラド美術館へ

シベーレス広場は昼間も見ごたえがあるが、夕暮れ以降のライトアップもまた別の美しさを見せてくれるのでお勧めだ。
また、「Atalanta e Hipomenes(アタランテとヒッポメネス)」を鑑賞できるプラド美術館は、無料で入場できる時間帯もあるので、ぜひチェックしてみよう。