スペイン・ワーキングホリデー制度の運用開始は2017年7月1日!

日本とスペイン間のワーキングホリデー協定が締結された。スペイン滞在を夢見る若者たちにとっては、待ちに待った運用開始は、2017年7月1日となり、いよいよ実際の申請条件等の詳細が駐日スペイン大使館より発表された。

スペインへのワーキングホリデーの参加資格は以下の通り。

  • 日本国籍を所有し、かつ日本に在住していること。
  • ワーキング・ホリデー査証申請時の年齢が十八歳以上、三十歳以下であること。
  • 被扶養者を同伴しないこと。
  • 有効な旅券を所持すること。
  • 帰国のための切符、又はそのような切符を購入するための十分な資金を所持すること。
  • 受入国スペインにおける滞在の当初三箇月間に生計を維持するための月毎最低€532.51、合計€1,597.53に相当する資金を所持すること。
  • 以前にワーキング・ホリデー査証の発給を当該締約国政府から受けていないこと。
  • 健康であることが医療診断書により確認されること。
  • 犯罪経歴を有しないことを申告すること。

定員に関しては、2017年に250名、2018年以降は年間500名に発給され、定員に達し次第、締め切るとされている。

駐日スペイン大使館 / ワーキング・ホリデービザ

参考:速報!在スペイン日本大使館がワーホリ申請を7月1日から受付開始




スペインへのワーホリの是非

今回のニュースについてのインターネットでの反応を見ていると、待ちに待ったこのニュースにスペイン滞在の実現に喜ぶ人たちがいる一方で、「スペインの失業率や賃金の低さを見れば、そんな甘くない!」というコメントもぼちぼち見かける。

とはいえ、このワーキングホリデー制度は、スペインに滞在してみたい若者の選択肢を大きく広げてくれることは間違いない。具体的にこのワーキングホリデーを利用して、どのような滞在の可能性か、今のスペインの状況も踏まえて考えてみたいと思う。

アンダルシアのバル




自由度の高い留学としてのワーホリ

これまでのスペイン語でもその他の勉学でも、スペインで留学したい人のビザ申請のためには大きな制限があった。
スペインで語学留学をしたい人は、現地で更新可能な長期学生ビザの場合、認定校で一定以上の授業時間、かつ半年以上の授業登録が必須とされ、あらかじめ全額の支払いを語学学校から求められる。ほとんどの場合キャンセルしても返金はないので、実際に行ってみたらその学校が自分に合わない、もしくは別の都市に引っ越したいという場合にもフレキシブルに対応することは難しかった。
その点、ワーキングホリデーを利用すれば、事前に学校の登録は必要ないので、現地でまず無料体験レッスンや1-2週間レッスンを受けてみて、自分にあった場所を探せたり、その時々のレベルや興味の分野によって学校を変更できるのは、大きなメリットになる。

また、スペインで勉強したい分野にビザ申請に有効な申請書を出せる学校がなかったり、個人的な師匠について修行したい、という人にとっても、今回のワーキングホリデー制度は朗報だ。これまでは諦めるか、あるいは不必要でも語学学校などに登録する必要があったが、1年間という期間限定ではあるが、学生ビザの要件から自由になれるメリットは大きい。
私がこれまで知っている例では、サッカーなどのスポーツ留学、音楽や絵画、デザインなどの芸術分野、フラメンコ留学などの人がこれにあたる。

デメリットは、とにかく期間限定で現地での更新、滞在資格の変更は不可なこと。一年後さらに継続したい場合は、一度帰国して正式に留学の手続きを踏む必要があるが、少なくとも一年目は自由だし、1年間、現地の状況を知った上で正式な留学を続けるのかを判断できるメリットは充分にあると思う。

就職活動にむけたインターンとしてのワーホリ

「将来はスペインで働きたい」と居住労働許可の取得に向けてのビジョンを持っている人は、どのようにこの制度を利用できるだろうか?

参考記事:スペインワーホリと観光インターン、支倉リーグ構想:スペイン語人材の活躍の場は?日西観光協会会長



ここでは、二通りの想定を考えてみる。
まずは、何か特定の分野での高度な専門性を持っていて、スペイン語か英語は仕事をするのに問題ないレベルだ、という人。こういう人は多分、ワーホリを利用せずとも、普通に企業にCVを送りまくって専門職のポストを勝ち取る可能性はあるが、スペインの企業の場合、まずインターンをして、その後正式に契約をもらえるというパターンが結構多い。その場合、労働許可を持っていないことは大きなハンデになりそうだが、もしかしたらこれをワーホリ制度が解決手段になるかもしれない。
ただし、私の知っている修士持ちの優秀なスペイン人技術者が、何年もインターンとして安い報酬でこき使われている例もみてきたので、あまり楽観視はできない。キャリア形成として、スペインという場が向いているのか?という問題もなくはない。スペイン人でも優秀な若者が海外へ流出しているのは紛れもない事実だ。

そして、もうひとつは、そういった専門性はないが、何でもいいのでまずは仕事が欲しい、という場合。これは、とにかく日本での職歴以外にも、スペイン語力が鍵となってくる。日本語対応要員として雇われる場合でも、スペイン側のスタッフとのコミュニケーションの必要性が皆無ということは考えにくいので、最低でもDELE B2レベルは求められる可能性はある。ちなみにスペインでは西検は知名度がなく、まずほとんど評価されないので、現地での就職活動をするのならばDELEをお勧めする。ワーホリ開始までに、日本にいる間にB2取得を目指すのもいいかもしれない。

スペイン語初心者には、B2は難易度が高いと感じる人もいるかもしれないが、ワーホリが始まればスペイン語学科卒やスペイン語圏の留学経験者とポストを争うことになる。そのあたりをにらんで、準備できることはしておくに越したことはない。DELEは実践的なスペイン語が重視されるので、日本で準備しておいてスペイン滞在中に会話などをブラッシュアップしながらB2取得を目指すのもありだろう。スペインでの生活を不自由なく送るためにも、DELE B2レベルは決して高すぎる目標ではない。たとえ大都市であっても、英語は思っている以上に通じないことは覚悟しておこう。

また、在スペイン日本大使館の発表したスペイン側からのワーキングホリデー申請条件によれば、往復航空券相当の金額とは別に準備すべき資金は「月毎最低€532.51が最低3か月分、合計€1,597.53」€程度とされているが、もしこの金額が日本からの申請の場合も同等であった場合、そして、この最低の金額しか準備せず、あとは現地で稼ごうと思っている人は、要注意なのが、スペインでは日本ほど簡単にアルバイトは見つからない、ということだ。

最近は、日本食レストランなども増えているため、労働許可の問題さえクリアして、かつ条件さえ選ばなければ、まったく働き口が見つからないというほどではないとは思うが、これもすべてはタイミング次第だ。スペインへ到着してから職探しをしても、すぐに見つかるとは限らない。そして、安心して住める部屋を探すまでの宿代、ピソ(アパート)の保証金1~2か月分、そして、職探しから働き始めてから最初の給料を手にするまでの期間を考えると€1,597.53は、実際は3ヶ月を過ごすのには不十分な金額だろうと思う。これは、あくまで「すでにスペインで働き口や住まいがあって、到着後すぐに仕事が始められる人」向けの金額と考えたほうが良い。

参考:
マドリードの短期滞在用アパートの探し方
スペインでの「お金」、お得な両替の方法は?

ということで、初期の資金を充分に準備できず、現地ですぐに働く必要がある人は、渡航前に現地の企業などにコンタクトを取って、就職のあてをつけたうえで、ワーキングホリデーをスタートすることをお勧めしたい。
そうでなければ、スペインよりもずっとアルバイトがしやすい日本で資金を稼いで、半年程度は現地で猶予期間をもてる準備をしてからスペインへ渡航がずっと効率が良いと思う。
そうでなければ、最悪1,597.53€を1-2ヶ月で使い果たして帰国を余儀なくされることのないよう、渡航前に職探しをはじめるなど、事前の足場の確保はしっかりしておこう。
(ワーキングホリデーの開始で色々な若者がスペインへやってくることを考えると、日系レストランなど、これまで日本人留学生などが働いていたようなポストが奪い合いになりそうなので、少しでも早くコンタクトしておくという意味でもメリットがありそうだ。)

そして、どちらの場合でも、問題なのは、ワーホリの間は雇ってくれたとしても、「それが雇用の本契約につながるのか?」という疑問になってくる。これまで「学生の滞在資格の切り替えができる3年まで待てば、本契約に切り替えるから」という甘い言葉で利用してくる雇用者もいるし、悪気がなくとも外国人へ新規の労働許可申請の困難さを知らないスペイン人雇用者が気軽に「雇ってあげるよ」と言って、その後現実の面倒さを知って、手のひらを返すパターンも死ぬほど見てきた。ワーホリでも類似の事例は、おそらく多発するに違いない。
ただし成功例も皆無ではない。ワーホリの1年間を最大限に利用して、チャレンジする価値はあるかもしれない。




フリーランス、自営業者としてのワーホリ

ワーホリ滞在資格で正式にフリーランスや自営業者としての働き方が可能なのか。これは制度の詳細が発表された後でなければなんとも言えないが、もし可能であれば、実は仕事の可能性はぐっと広がる。一つの企業に雇用されなくても、自分自身でクライアントを直接探し、直接報酬を受け取ることも可能になる。
問題は、日本で自営登録したままでOKなのか(つまり日本の住所宛のまま請求書と領収書が発行できるのか?)、あるいは、スペイン側での自営登録が必要なのか、それが可能なのかが、大きな鍵になりそうだ。
というのも、スペインでは領収書発行が納税番号と共に厳密に管理されているので、この請求書なしの支払いは、ネグロと呼ばれるブラックマーケットで違法とされる。(勿論、現実にはこのようなやり取りは多く行われているが、違法である以上、キャリアとして公表はできない。)

もしフリーランスとして働くことが可能であれば、日本からもらった仕事のリモートワークだけでなく、在スペインの企業や個人に営業をかけて、仕事の可能性を探ることもできる。

自分の得意分野やキャリアをうまく生かして、例えば、

  • 書道や折り紙、日本料理などの日本文化クラス主宰
  • 日本企業のスペインでの代理営業
  • 日本の都市や観光施設と契約して訪日観光のプロモーション
  • スペイン側の企業へ日本人向けの集客プロモーション

ワーホリでは1年後の延長や滞在資格の変更はできないので、「店を開く」などのような初期投資が大きいものは向かないかもしれないが、大掛かりな機材などが不要で、レンタルスペースなどで実現可能なものなどは、チャレンジが可能そうだ。

そして、結果がでるなら、将来性がありそうなら、あらためて本気でスペインでの起業や独立を検討すればいい。そのための試金石として、ワーホリの1年を利用するのも楽しそうだ。(ただし、このスタイルの働き方がワーホリで許可されるのかは、現時点では不明。詳細な制度の発表を待って、必要であれば大使館などへの確認が必須。)

スペインでは毎年、観光や食など様々な国際見本市が開催される

そもそも長い休暇としてのワーホリ

ここまでは、ワーホリをどのように過ごすかについて、ハードな目的があることを前提に書いてきた。しかし「壮大なハードル」と「高い目的意識」が必ず必要かといえば、必ずしもそうではない、と私個人は思っている。
勿論、周囲の人に「なぜスペインへ行くのか」を納得させるためには必要かもしれないが、所詮その程度だ。未成年で保護者の責任が問われる、もしくは親にお金を出してもらう場合には、誰かを説得するためにしっかりした目的とプランの設計が必要かもしれない。しかし、20歳を超えた大人が自分のお金でどのように過ごそうが、合法である限りは、本来は他人が口を出す権利はない。というより、口をだしてくる人がいたとしても、それを聞いて従うか従わないかは、本人次第だ。

ということで、「ワーキングよりもホリデー」派も個人的には大賛成だ。チャンスがあれば経験をつむ意味でも働くけど、基本は休暇、というのは、ワーキングホリデーの本来のスタイルでもある。

私個人の意見としても、単に滞在のお金をまかなうためだけにスペインで安い賃金で働いたり、家に閉じこもって日本からのリモートワークを黙々とこなすくらいなら、その分期間を短縮しても思いっきり遊んだほうが賢いのでは?という気もしている。

せっかくのスペイン滞在なのに、お金の制限のために行きたいところや、やりたいことが制限されるのは、とてももったいないと思う。そうならないためにも、しっかりと出発前に資金の準備をしておくことは大切だ。
日本と異なり、基本的には時給仕事のないスペインでは、気軽にアルバイトが探せるわけではないし、スペインでの稼ぎを前提にしていていると、悪い労働条件でも足もとを見られて辞められなかったり、ブラック(正式契約なしで現金払い、税金も社会保険もなし)での労働を提案されても断れなくなったりしかねない。ちなみにブラックの場合、仕事中の怪我や病気も保障されないし、給料未払いで踏み倒されても訴えにくいので泣き寝入りなどのリスクがある。確かに雇用契約は面倒だが、被雇用者を守るためのものでもあることは忘れないで欲しい。

ともかくスペインでの正式な雇用は思っている以上に面倒なので、そんなことよりも、せっかく何でもしていいのであれば、「とにかく毎週、レアルマドリード(バルサでもいいけど)のホームゲームをスタジアムで見たい」「いや、それどころか練習場を覗きに行きたい(公開していないチームもあるけど)」とか、「スペインの全ての州に住んで友達を作る」とか、「日本のタコ焼きをスペインで広めたい」とか、ワーキングホリデーでないと絶対にできない過ごし方にチャレンジする方が、実は価値があるのではないか、と思ったりもする。

セビージャの春祭り

自由な目的で滞在してもいいというただ一度だけの権利

というのも、実はこれまで「ただスペインに滞在したい」というのは、EU市民以外には許されていなかった。日本人を含む外国人の場合は、必ず「通学、就業、結婚」など何らかの、しかもかなり厳密な滞在目的を証明しなければ、自由な目的でスペインに3か月以上滞在することは基本的には許されなかったのだ。
それが、今回のワーキングホリデー協定締結により、一年という期間限定ではあるが、「あらかじめ滞在の目的を限定しなくても、一年かは自由にスペインに滞在してもいい」という素晴らしい権利が、これからの若い人には生涯に一度だけ与えられるようになったのだ。
これを活かさない手はない。本当に30歳以下の人が羨ましい。だからこそ、他人の考える「こうあるべき」に縛られず、自由な発想で思いっきりチャレンジしたらいいと思うし、どんどん新しいことがここから生まれるといいな、と期待もしている。

日本・スペイン間のワーキングホリデープログラムの可能性について、今回書きながらいくつか思いついたことがあるので、そのあたりはまた近々整理して書いてみたいと思う。



追記:
日本・スペインのワーキングホリデーについて、考えたことをこちらを書きました。
スペイン・ワーキングホリデー開始!日本でスペイン人を受け入れる&サポートしてみよう

ワーキングホリデーに参加したい人、そしてワーホリ利用者を受け入れたい人が情報交換ができる場があればと思い、一応Facebookの公開グループを作成してみました。日本側、スペイン側から、渡航予定の人も、将来渡航したい人も、自国側で受け入れたい人も利用する場になればと思います。
ぜひ参加してみてください。

Facebookグループ:Working Holiday Japan – Spain

スペインのボデガ(酒蔵)