「スペインって英語通じますか?」

たまにこういうことを質問される。私が知る限り街によっても状況は異なるが、マドリードの街中では英語はほとんど通じないと考えてよいと思う。ちなみに、私が初めて訪れたスペインの街はバルセロナだったが、この地で「フォーク」が通じないことに驚愕したことをよく覚えている。

日本ではフォークという言葉は外来語として老若男女誰でも知っている単語だが、同じくフォークという道具が大昔から存在していただろうスペインでは、当たり前だけど英語のフォークが外来語になっているわけはなくて、テネドールというれっきとしたスペイン語が存在する。こんな風に日本人なら外来語として知っている英語の単語であっても、スペインでは驚くほど通じないことに、軽いカルチャーショックを感じたりする。

そこで、「スペインってなんて不便なの!?こんな簡単な英語すら通じない!」と毒づくのも別に個人の自由だけれど、スペイン語だって20カ国が公用語にしている世界の主要言語のひとつだし、相手の国の言葉を使ってみるのは、「あなたと仲良くしたい」というサインでもある。ちょっとだけでもスペイン語ってみると、「なんだ、この日本人スペイン語を話すぞ!まだ来たばっかり?結構うまいじゃないか!」となるのが、スペインの良いところだ。

ということで今回は、せっかくスペインに来るならぜひ現地で使いたい、10分で覚えるトラベルスペイン語会話をお届けしようと思う。



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    日本で中学校から何年ももかけて英語教育を受けた後、30歳手前になって知識ゼロから3週間のプチ留学でスペイン語を学んでみた経験から言えるのは、言語の学習には二つある、ということだ。

    試験のための学習と、実際に使うための学習だ。

    私の場合、英語は前者、スペイン語は後者だった。「オラ」「グラシアス」しか知らないのにスペインのスペイン語学校ではスペイン語で授業が始まる。教師は最初は絵を指差しながらの授業をスペイン語で行い、私のようなスペイン語がまったく理解できない生徒にもスペイン語を習得させていく。この3週間で学んだ後に、1ヶ月スペイン各地を一人旅して回ったのだが、実はトラベル会話としてはほとんど困ることはなかった。

    中学校から大学まで多くの時間を勉強に費やし、いくつもの単語を覚え、自制の一致だの関係代名詞だの文法を勉強し、長文読解テストなど、様々に学習して来た英語はこんなにたどたどしいままなのに、たった3週間、しかも最後の一週間は復習だったので実質2週間で、シンプルながらもある程度自信をもってスペイン語を話せるようになったのはなんでなんだろうか?
    (勿論、スペイン語にもその後に高い山や深い谷があるのだけれども、それはまた別の話。)

    これにはいくつかの要因があると思うが、日本での英語学習と最も大きく異なった思うのは、

    • まずは聞く・話すから学習をスタートさせる
    • 子供が言葉を学ぶ過程と同じで、耳から入れて口から出すを繰り返す
    • スペイン語をスペイン語として理解し、他の言語に翻訳をしない
    • 毎日勉強して、実生活で使っていた

    という点だった。

    これは実はかなり実践的な学習方法で、これまで日本で英語を学んだ方法だと、まず日本語で考え、英語に翻訳して口に出す、英語を聞いて、頭の中で翻訳して理解する、というプロセスが必要だったが、このやり方なら簡単な内容であればいきなり実践的に話せるようになる。難しい文法を知らないので、自分の知っているシンプルな文型を組み合わせながら、迷わず言いたいことを言えるようになるのだ。この方法だと、「おお、何かスペイン語で伝わった!」という達成感も得られる。

    degustacion

    逆に、簡単なことを話す練習をせずに、もの凄く種類の多い動詞の活用や複雑なスペイン語の自制なんかを正しく話そうと思うと、とっさに言葉が出てこなくなってしまう。

    ということで、付け焼き刃であれば下手に細かな文法の知識はないほうが、思い切ってスペイン語でコミュニケーションできる場合もある、というのは私の意見だ。

    ちなみに、こちらの「」は、英会話についての本だが、ちょっと似たようなコンセプトで実践的な英語の使い方と学習についてデータを用いて分かりやすく解説しているので、よかったらぜひチェックしてみて欲しい。
    きっと「外国語」に対する苦手意識を和らげてくれるはずだ。

    そして最後のポイント、「勉強したことを毎日使う」については、もし日本で一週間に一回スペイン語のレッスンを受けたとしても、正直一週間経つと翌週にはかなりの部分を忘れてしまう。かといって、毎日勉強や会話の練習の時間を持つのは、よっぽど強い精神力の持ち主か、何か特別なモチベーションがなければ難しい。なので、どうしても復習して行きつ戻りつしながら進んで行くことになる
    ところが旅の最中なら、毎日スペイン語を使う機会がある。日本ではなかなかえられない「毎日スペイン語を使う」機会の多いスペインでの旅は、日本で勉強する何ヶ月分かのスペイン語力を一気に身につけることができるかもしれない貴重なチャンスになりうる。

    ということで、ここでは基本的に文法にはいっさい触れず、簡単だけど旅の最中に実践で使えそうなスペイン語を紹介しよう。ぜひ旅の最中になんども繰り返して、スペイン語を使って旅をするという体験を楽しんで欲しい。




    とにかく挨拶は基本

    前置きが長くなったが、さっそくレクチャーに入る。

    日本人が知っておきたいスペイン旅行のマナー編」でも書いたが、とにかく欧州に一歩足を踏み入れたら、店でもレストランでも客も挨拶をするのが礼儀だ。ということで、まずは基本の挨拶編はしっかりマスターしよう。

    ここで覚えるべきは4つ。

    本当は「耳から聞いて、口から出す」を推進したいところだが、ここでは文字を介さないわけにいかないので、できるだけ自分の口で繰り返し発音しながら覚えてもらえればと思う。

    オラ

    「おはよう」「こんにちは」「こんばんは」などのスペイン語もあるが、ここはできるだけシンプルに行こう。ということで、「オラ(やあ、どうも)」だけを覚えておけば一日中、いつでも使える。バル、レストラン、ショップに入ったら、必ず「オラ」と言おう。

    ポルファボール

    「お願いします」も万能の言葉だ。「ウン・カフェ、ポルファボール(コーヒー1杯、お願いします)」「ラ・クエンタ、ポルファボール(お勘定、お願いします)」のように、名詞+ポル・ファボールで欲しい物を伝えられる。名詞の部分のスペイン語が分からなければ、指をさして「ウノ、ポルファボール」だけでも通じる。
    (ウンとか、ラとかは冠詞だが、トラベルスペイン語的には面倒なのであんまり気にしなくても良い。多分なくても通じる。)

    グラシアス

    「ありがとう」ポルファボールとお願いして聞き届けてもらえたら、グラシアス(ありがとう)もセットでどうぞ。

    アスタ・ルエゴ

    「アディオス(さよなら)」もあるが、アスタ・ルエゴ(またね)の方がよく使う気がする。友達同士でも、お店を出るときも、これを言って立ち去ろう。

    バルやレストランでは、店内に入ってから、出てくるまでの間、大抵の場合はこの4つのスペイン語で充分にやり過ごせる。これだけをスペイン語で言えるだけでも、随分スペインの旅が楽しくなってくるはずだ。

    cafe




    難しい文法は抜きにして使えるフレーズはこれ!

    次に、もうちょっと文章っぽいものを話してみたい、という人のために、旅行中にまずは覚えておきたいスペイン語の便利で簡単で使える文型をいくつか紹介しよう。

    ソイ・○○ (私は○○です。)

    ○○には、自分の名前や、ハポネス/ハポネサ(日本人)などの国籍、エストゥディアンテ(学生、男女同形)、ブロゲーロ/ブロゲーラ(ブロガー)、インフォルマティコ/インフォルマティカ(IT技術者)などの職業などが入る。あんまり自分に対して使う機会はないかもしれないが、グアポ/グアパ(ハンサム/美人)、シンパティコ/シンパティカ(親切だ)、アマブレ(優しい)などの形容詞も使える。

    自分の職業や特徴などスペイン語単語をあらかじめ調べておけば、スペイン語での自己紹介ができるようになる。ぜひスペイン語での自己紹介をしてみよう。ちなみに自分のことを言った後に、イ・トゥ?(で、あなたは?)と聞くと、相手にも質問できる、という便利な手も使える。

    ※ハポネス/ハポネサのようにスラッシュで区切っているものは、男性名詞/女性名詞。

    <応用編>
    主語が「私」ではなく、「あなた」のときはソイの代わりにエレス、「彼女・彼、あるいは個人名」の場合はエスにすればOK。
    否定文のときには、最初にNO(ノ)を付けて、ノ・ソイ・エストゥディアンテ(私は学生ではありません)のように使える。

    疑問文は語順の入れ替えはなし。エレス・エストゥディアンテ(↑)のように語尾をちょっと上げるだけ。答えは、シ(はい)かノ(いいえ)。

    アイ○○? ○○はありますか?

    ○○には、エスタシオン(駅)、パラーダ・デ・アウトブス(バス停)、スーペルメルカード(スーパーマーケット)、レスタウランテ(レストラン)などが使える。

    <応用編>
    否定文の場合は、他と同じく最初にノを追加する。
    この文章の後にもうちょっと情報を付け加えることもできる

    • この辺に ポル・アキー
    • ホテルの近くに セルカ・デル・オテル
    • 駅の中に エン・ラ・エスタシオン

    つまり、ノ・アイ・レスタウランテ・エン・エル・オテル(ホテル内にはレストランはありません)のようにも使えて、このよう組み合わせるとぐっと文章らしくなる。

    ドンデ・エスタ ○○? (○○はどこにありますか?)

    道順を聞くのに重要なフレーズ。ただし、スペイン語でわーっと返って来ても、理解できないので、地図を見せながら聞くのがおすすめ。

    ○○には人を入れることもできる。ドンデ・エスタ・フアン?(フアンはどこにいる?)とか、ドンデ・エスタ・カマレロ?(ウェイターはどこにいる?)という使い方も可能。

    コモ・セ・ディセ・エン・エスパニョール?(スペイン語で何といいますか?)

    スペイン語の語彙を増やすマジックフレーズ。言葉を喋り始めた子供がやるように、あちこち指をさして「これなーに?」「これなーに?」と繰り返せば、単語帳とにらめっこしているよりもずっと楽に、そして日常で使う単語から、スペイン語の語彙を増やしていける。

    そして、単語を覚えてしまえば、「(新しく覚えた単語)、ポルファボール」のように、上記フレーズを組み合わせてどんどん使える場面が増えていくに違いない。

    まずはこのあたりを使える基本文型第一弾として挙げてみた。この程度でも、かなり多くのことがスペイン語で話せるようになるはずだ。

    実はこの他にも、「動詞の活用なしで使える楽チンな文型集」とか「簡単な文型を組み合わせて使って、なんかスペイン語がしゃべれてる風に見せる裏技」とかもあるのだが、それは第二弾として次回以降のテーマにしようと思う。

    間もなくスペインに発つので、次回まで待てない!という方には、こちらの本がおすすめ。私の最初のスペイン旅行の最中に最も役立った本で、文法についてあまり考えてなくても使える実践的なスペイン語会話本で、あまりに便利だったので母がスペインに遊びに来たときに進呈した。

    自信のないときほど大きな声でゆっくりと

    スペイン語は子音と母音で一音節とした発音が多く、英語よりは日本語の発音に近いので日本人似とっては比較的発音しやすい言語だ。二重子音や母音でも「U」のように日本語の発音とは異なる部分もあるが、基本的にはカタカナ読みで通じることが多い。

    にも関わらず、スペイン語初心者が現地で「通じなかった」と感じてしまう場合がある。私がそういったケースを観察していて分かったことは、彼らのスペイン語が通じない一番の原因は発音の問題ではなく、声の大きさだったりする。

    発音に自信がないときほど、「大きな声で、ゆっくりと、クリアに発音する」を心がけてみよう。伝わりやすさは飛躍的に上昇するに違いない。

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    間違ってもいい、何か話せば伝わる!

    スペイン語の試験を受けるわけでも、間違ったら先生に怒られる授業でもない。トラベル会話では正しい文章で喋ろうとして黙って考え込んでしまうより、単語の羅列でもいいので、口に出すことが大切だ。

    「スペイン語勉強してたのに、現地にきたら全然話せないんです」という人に私が時々アドバイスしたいのは、表情やジェスチャー混じりの日本語で言ってみると、「この人は何か欲しがってるんだな」とか「怒ってるようだ」とか、伝えたいことの30%くらいは伝わる、ということだ。もしそこで知っているスペイン語単語を一つか二つ言えるだけで、多分50%くらいまで伝わる率は上がるかもしれない。でも黙ってしまえばゼロ。何ひとつ伝えることは出来ない、ということだ。

    ちなみに私の母の友人がマドリードに遊びに来た際、あるショップにて彼女は日本語、店員さんはスペイン語で欲しいものを巡って何やらやりとりしていて、少し遅れて私がヘルプに向かうと、不思議なことに必要なことはお互いに充分に伝わっていた、ということもあった。

    つまり究極的には日本語でもいい。もしかしたら苦手な英語で無理に伝えようとするより(もしかしたら、相手のスペイン人もあなた以上に英語が分からないかもしれないし)、複雑な内容のスペイン語を話そうと四苦八苦するより、とっさの場合は日本語でもいいから、言葉にしたほうが伝わる場合だってあるのだ。

    つい長くなってしまったが、そのくらいの楽観的な心構えと加算方式で、ぜひ気楽にスペイン語を使ってスペインの旅を楽しんでみて欲しい。ぐっとスペインとの距離が縮まるかもしれない。

    マドリードのバルでビールをスペイン語で格好良く注文したいという方は、ぜひこちらの「マドリードのバルでビールを何と呼ぶ?ビールの呼び方いろいろ」も参考にどうぞ!