「マドリードの治安ってどうでしょう?」「マドリードに夜遅くに着きますが、治安は大丈夫でしょうか?」という問い合わせも多く、マドリードの治安を心配する声は未だ根強く存在する。確かに、旅先の治安は重要な旅のポイントのひとつ。ただ、住んでいて感じる安全・治安と、旅行者の安全・治安、そしてその両者の対策は、実はちょっと違う。生活習慣や土地勘の有無、行動範囲などが、在住者と旅行者で違うからだ。
これまでコーディネーターという仕事上、日本から迎えたいろいろな旅行者や短期滞在者のトラブルを目の当たりにしてきた目線から、マドリードの治安の現在の本当のところと、トラブルを避けるためのノウハウなどを考えてみたので、ぜひマドリードでの旅の参考にして欲しい。

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マドリードでの主な被害はスリ・置き引き

個人的な経験だけで語る前に、まずは客観的でより一般的な観点から、マドリードの治安状況を検討してみるために、在マドリードの日本大使館が毎月アナウンスしているスペインでの邦人被害レポートを見てみよう。こちらを見る限りは、2018年7月現在のマドリードで日本人が受けた犯罪被害は、強盗や生命の危険を感じるような事件はほとんどなく、邦人の被害はスリや置き引きがほぼ100%といっていい。

2018年7月までのマドリードの被害レポートをまとめてみると、7か月間で54件の被害件数中で目立つのはスリ35件、置き引き16件だ。被害の発生場所は、散策中の路上が20件、地下鉄が各7件、次いで市内のレストランやカフェ6件、ホテル5件、空港、美術館、バス、ショッピング中などと続く。

1件だけこん睡強盗らしき報告があるが、基本的には2018年7月時点で日本大使館に報告されている範囲では暴力を伴うような強盗被害は発生していない。そういう意味では、基本的にはスリと置き引きにさえ注意していれば、マドリードは比較的安全に観光ができる街であると言える。

とはいえ、旅の最中に現金やカード類、航空券、パスポートなどの盗難にあってしまうと、被害届や再発行手続きに時間をとられたり、不便を強いられたりと、せっかくの楽しい旅が台無しになってしまうので、スリや置き引きといえども、被害に合わないように十分に注意したいところ。

突発的なテロや事故、強盗などは決定的に避けることは難しいが、置き引きやスリであれば、ちょっとした注意次第でかなり被害に合う確率を減らすことができる。
ということで、マドリード観光中にスリ・置き引きの被害にあわないための注意点について、まとめてみた。
ぜひマドリード観光の際に留意して、安心して安全な旅を楽しんでもらえれば幸いだ。

観光者装備が必要か?

まず服装や持ち物についてだが、個人的には旅の最中だからといって、特別な格好や装備は必要ないと思っている。街を歩いていて気づくだろうが、みんなごく普通のバッグにごく普通の格好で街を歩いている。

きちんとしたレストランやショップできちんとした扱いを受けたいなら、きちんとした服装であることは必要であるし、これも個人的な意見で、異論もあるだろうが、むしろ多くのポケットついたベストにウエストポーチ、ななめ掛けのバッグのような「これぞ観光客スタイル!」の方がかえって目立って標的にされやすいのではないかとも危惧している。
なので、基本的には、普段どおりのごく普通の服装とバッグでかまわないと思う。

ただ、被害状況を見てみてもらえば、「ポケットに財布」は大きな問題があることに気づくはずだ。日本では手ぶらという男性も、必ず鞄やバッグを用意しよう。

鞄・バッグは、きちんと口がチャックなどで閉められるもの、そして、街中を歩くときはチャックの開け口に手を置いて簡単に開けられないように気を付ける習慣をつけたい。
ジャケットやズボンのポケットなどに、財布や携帯電話を分散して入れるよりは、ひとつのカバンにいれて、そのチャック部分の取っ手を身体の前側、中央側にするように持ち、その部分に手をおいておけば、その一点だけを注意すればいいので、かえって安全だ。

写真などを撮る場合に、どうしても両手を必要とするときには、周囲に不自然に近づいている人間がいないこと、カバンはできるだけ身体の前にかけることを注意しよう。人間は自分の目の前には注意を払えるが、背後に人が近づいてきても気づけない。

被害件数にスリが多いことを考えると、財布や貴重品はカバンの中のチャックがあるポケットの中か、あるいはカバンのチャックをあけてもすぐに見えないよう底の方に置くだけでも効果がある。とにかく、自分が取り出すいやすいということは、スリにとっても盗みやすい。ひと手間かかるところにあれば、それだけスリもアクセスしにくい。

貴重品をまとめている場合は、まとめて取りやすいので、かえって危ない。それごとチェーンを付ける、カバンの底かチャック付きのポケットにしまうなど、ワンステップで取られない工夫をしよう。

街歩きの持ち物は?

また、持ち物としては、あまりに多くの現金は持ち歩かないことだけは注意してほしい。
現金はスペインでは、ほとんどどこでもクレジットカードが利用できると考えて良い。スーパーマーケットやバルでは、カード払いは5€以上などの最低金額を設けている店も存在するが、それを考えても多額の現金は必要ない。コーヒー代程度で十分だ。
盗難にあっても、クレジットカードと異なり、旅行保険でも現金が保証されることはまずない。

どうしても現金が現地で欲しい、という場合は、その都度、マドリードの街中のATMで現地通貨を引き落とせるお得なサービスもあるのでぜひ利用しよう。
空港や町中の両替サービスよりもずっとレートも手数料もいいので、安全の面でも安さの面でも断然お勧めだ。

スペインでの「お金」、お得な両替の方法は?

ちなみに、パスポートについても、街歩きはコピーで問題ないので、安心できるホテルであれば、パスポート本体はホテルに置いておいても問題ない。(ドミトリータイプなどの場合は別。セキュリティボックスがあるかどうかを確認しよう。)

立ち止まった時には周囲に注意を

最も被害が多いスリを避けるには、大きく二つのポイントがある。
立ち止まったら、周囲に気を配ることと、カバンに注意すること。この二つだけで、スリの被害はぐっと減らせるはずだ。

歩いたり動いたりしている最中はスリ側も仕事がしにくいので、ほとんどの場合、立ち止まっているタイミングを狙ってくる。地図を広げて道を聞いたり、時間を聞いたりするのは、注意を引くのもあるが、歩いているカモの足を止めさせる意図もある。なので、とにかくどんな理由でも、立ち止まっている時間は無防備にならないことが重要なのだ。

地下鉄の中や駅、そして町中で信号待ち中にスリの被害が結構多いのは、立ち止まっている時間があることも要因のひとつかもしれない。例えばメトロ内では車内でおしゃべりに夢中になりすぎず、できれば壁側の位置を確保して、バッグは前に抱えて、ファスナー部分に手を置く、そして周囲に目を配ることを忘れずに。恐らくこれでほとんどの場合、スリは寄ってこない。あるいは、ちゃんと周囲を見ていれば、意味もなくなぜか近寄ってくる怪しい人の違和感にきっと気づけるはずだ。
怪しい人が近寄ってきたら、持っている鞄をしっかり身体の前で抱える。しかも、チャックの引手部分をしっかり手で握る。これを意識的に行うことで、スリも相手が警戒していることがわかり、ターゲットから外れる。この時、ズボンやジャケットのポケットは、さらわれてしまう可能性があるので、貴重品はポケットではなく鞄に入れていることが重要
(過去に日本からのお客さんとメトロで移動中、スリの接近に気づいて警戒していたものの、やはりポケットに財布をいれていた一人の方がスリに盗まれてしまった、という実例を経験しました)

ただでさえ日本人が数人で固まっているだけで、非常に目立つので、無防備だとターゲットにされやすい。私の経験から考えてみても、これまでスリ未遂にあった数回は、すべて日本人旅行者と数人でいた時で、しかも地下鉄内では立っている時だった。
スリに目をつけられないよう、「ちゃんと注意して周りを見てますよ」とアピールすることが大切だ。

常に緊張している必要はない。とにかく立ち止まったときに、周囲を見る、カバンを身体の前で抱える。

ただ、この二つに自信がないほど疲れている時は、タクシーを使うのも簡単な解決策だ。
市内の移動なら、10€以下で結構な範囲を移動できる。これで、スリの被害に合わずにすむなら安いものだ。タクシーはクレジットカード払いも受け付ける。

また、土地勘がなくてボラれないか心配という人は、事前にルートと金額が決まるCabifyというシェアライドのアプリケーションをあらかじめインストールしておくのもおすすめする。

Cabify(キャビファイ)はマドリードでの観光の足にも便利!料金体系や賢い使い方は?

支払いも事前に設定していたクレジットカードから自動的に引き落とされるので、万が一、カードを紛失したときにも、自分のスマホか、あるいは同行者の携帯電話を借りてログインできれば、ホテルまでの帰路や大使館への移動時の緊急避難的な助けになるかもしれない。
(できれば、持ち歩く用のクレジットカード以外を登録しておくと、リスクが分散されてなお良い。)
ちなみに、本サイトのページから登録、もしくは紹介コード入力すれば、初回利用時に5€(場合によっては10€のキャンペーン時期もあり)のクーポンが使えるので、実際に利用するかは別にしても念のため登録しておいて損はないだろう。

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大前提は荷物を手元から離さないこと

スリ対策をしても、カバンごと持っていかれる置き引きには効果がない。置き引きの対策で服装や装備よりも重要なことは、「とにかく荷物から目と手を離さないこと」だ。
具体的には、以下のような点に注意しよう。

  • バッグをおいたまま席を立たない(たとえ、同席の人が残るとしても)
  • レストランの席でバッグを床に置いたり、背もたれにかけず、かならず膝の上(壁の角側などの人が絶対に通らない、他から手が伸ばせない席に置くならば問題ないが、そのままにしてトイレなどで席を立たないこと)
  • ショッピング中、特に試着室以外での試着の場合などにも、荷物をテーブルなどに放置しないこと
  • ホテルやショップの支払いや空港でのチェックイン中なども、荷物をカウンターやスーツケースの上などに置かない
  • 携帯電話をテーブルの上に置きっぱなしにしない

特にこ12月のマドリードの街中やイベントの最中など混雑してくると、置き引きが増える傾向にあるので、特に荷物から手と目を離さないようにしっかり注意しよう。

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特に被害が多いポイントは?

その他に、特に被害が起こりやすい場所、場面について、簡単にまとめてみる。ぜひ参考にして欲しい。

観光の最中
観光地をピンポイントで狙うスリが多い。
マジョール広場、ソル、サン・ミゲル市場、王宮、美術館など、観光客が多い主要観光スポットにいる間は、観光に夢中になるあまり手元がおろそかにならないよう、これまでの注意ポイントに特に留意したい。
写真を撮る場合、撮られる場合など、周囲と自分の荷物に十分注意しよう。できれば、貴重品は最低限で。

メトロ
メトロを主戦場にしているスリ・置き引きがしばしば現地でも報道されているし、実際に被害報告を見てもメトロでの被害は多い。
特にエスカレータでの移動中に鞄を必ず体の前で抱えること、車内ではできるだけ座席に座って荷物を膝の上に置く。もし空席がなく立つ場合には、できるだけ壁を背に車内全体の様子が見える場所(怪しい人が近づいてくる、もしくは同じ車両内にいるか確認できる位置)に立ち、鞄を身体の前にしっかりかかえつつ、チャックの開け口に手を置くこと。
時間などを聞いてくる人には特に注意。実際に単に時間を聞きたい人もいるが、調べずにすぐに答えられる場合を除けば、基本的に「ごめん、わからない」でいい。勿論、単に聞いてくる人もいるが、中には時計や携帯に目を離した間に、仲間がスリをするのは常習手段だ。(これも実体験…)

ホテル、空港、レンタカーのカウンター
支払いや手続きの間、ついついカバンをスーツケースの上やカウンターに置いて、手続きに集中してしまうが、観光客の多いホテルのロビーや空港は、スリ・置き引きの危険ゾーンだ。貴重品は必ず目に入るところか、手元から放さないよう注意しよう。

街中で知らない人から話しかけられる
前述のように立ち止まった瞬間を狙われることがある。単に道を聞かれることも無きにしもあらずだが、立ち止まったら荷物に注意は怠らないことだ。よくわからない署名などを求められる場合も多い。不用意に相手の距離が近い場合は、下手にスペイン語や英語で答えようとせずに、立ち止まらずに日本語でいいので「分からない。ごめんね」といって立ち去ろう。

どうして足を止めるという場合には、カバンをしっかり身体の前でかかえる。これだけで、相手にスリを警戒していることが伝わる。これは多くのスペイン人が自然に行う習慣なので、特に失礼にもあたらない。

カフェ中にテーブルの上の携帯電話を盗まれる
これも実際に何度か目にした手口なのだが、カフェテリアやテラスなどにいると、何人か若者が寄ってきて、何かを書いた紙をテーブルで広げてくる。物売りか物乞いかとおもって無視していると、その紙を回収するついでに、テーブルの上の携帯電話なども一緒に盗んでいく。
携帯電話盗難の被害は大使館にはあまり報告されていないが、自分の身の回りを見ても、盗難件数は結構ありそうだ。
とにかく、まずは携帯電話などをテーブルに放置しないこと、店員以外の人がよってきたら、自分でもテーブルの上に携帯などを置いていないか、手荷物は安全かを確認することが重要だ。

大道芸人の人だかり
ソル広場などで大道芸人の周りに人だかりができている場合がある。面白いパフォーマンスを見るのもマドリード散策の楽しみにひとつだが、混雑で立ち止まるときは、必ずバッグは身体の前&ファスナー部分をしっかり持とう。

それでも被害に遭ってしまったら?

どんなに注意していても、不運はある。まずは、被害をチェックしよう。

カード類の被害の有無をチェックし、被害があればすぐに連絡をして停止する。盗難後24時間以内に停止届けが申請されない場合は、不正使用があっても保険が適用されないので注意が必要だ。
主なカード類の連絡先は日本大使館のページを参照しよう。

次に、保険やクレジットカード等の再発行のためにも必要なので、必ず警察へ盗難届けを出す。届けは、外国人向けの被害届サービスへ電話、もしくは、直接出向く場合は、Comisaria de Centro 中央地区警察署 (C/Leganitos 19)では日本語での盗難届けサービスもあるので、被害を報告して、盗難・紛失証明書をもらおう。

パスポートの盗難・紛失の場合は、それを持って日本大使館へ行き、パスポートの代わりに「帰国のための渡航書」を発行してもらう。(詳細な手続きについてはこちら)

保険などではカバーされる場合もあるが、基本的に盗まれたものは戻ってこないうえ、何より貴重な旅の時間を事後処理に費やすことになってしまうし、何より精神的ダメージが大きい。
20年ほど前は異なるかもしれないが、少なくとも現在のマドリードは注意さえすれば、決して治安の悪い街ではない。前述のスリや置き引きに対する注意は、恐らく世界中のほとんどの都市で当たり前にするべき注意とさして変わらないはずだ。
決して過剰に恐れる必要はない。ちょっとだけ身の回りに注意して、極力被害にあわないよう努めたうえで、安心してマドリードを楽しもう。

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