今回はマドリードでも非常に珍しいキノコ料理の専門店を紹介しようと思う。
スペインでキノコといえば、マッシュルームや平茸のアヒージョ(ニンニクオイル煮)が有名で、逆に言えば一年中安定して手に入るキノコは、ほぼこの二種類で占められている。秋になると、様々な種類の天然キノコが店頭に並び始めるが、やはり調理方法にはさほどバリエーションがない。
ところが、今回紹介するレストラン El Brote(エル・ブローテ)は、スペインのキノコ料理のイメージを、その多彩な料理で大きく裏切ってくれる素晴らしいレストランだった。
実は今回、あるグルメな友人が「非常に信頼する料理人から美味しいキノコ料理のレストランがあると聞いたので、ぜひ一緒に行ってみよう」と誘ってくれたのが訪問のきっかけだったが、事前知識もほとんどない状態で訪問したので、よけいに予想外の連続だった。
かくして、オーナーと料理人たちのキノコと料理への探究心と愛を感じられるこういう場所で、素晴らしい食体験をすることができた。持つべきものは、食への飽くなき好奇心と広い情報網を持った友人である。
旬のキノコを週替わりで
レストランは、マドリード中心地から少し離れたメトロの4番線のALOFONSO XIIIの近く、駅を出て目の前のLopez de Hoyos通りを渡って、左側の最初の角を右、2ブロック進んだJavier Ferrero通りにある。看板は出ていないが、オレンジ色の丸い看板にキノコマークが目印だ。
メニューは昼も夜も、6 種キノコのフル・コース(パン付き、飲み物別)40ユーロ、4種類キノコのショート・コース(3皿+デザート)30ユーロのセットメニューのみ。今回試してきたフルコースでは、メニューで示された6皿以外にも、コースが始まる前の前菜と途中の箸休めに2皿も加えてサービスされた。
また、デザートはキノコを使った物も含めて3種から選択できる。(セットメニューに含まれるキノコの数にデザートも入れているが、キノコを使っていないデザートもある)
セットメニューは、キノコの種類により毎週リニューアルする。秋のキノコのシーズン以外でも、夏のバケーションの休業時期を除いては、一年中その時々で手に入るキノコを料理し提供している。キノコは天然ものが中心だが、椎茸など一部は栽培ものを使っている。
風味を楽しむ。6種のキノコ料理のフルコース
さて、2015年9月の最後の土曜日、実際にレストランを訪問してきたので、その日のセットメニューを実際にレポートしてみよう。
前菜 :生牡蠣、お茶のクラッシュアイスとネギ、醤油
1皿目:アンズタケ、田舎風パテ、塩漬け野菜、パセリのクリーム。
2皿目:ニスカロ、ベルディーナ(緑インゲン豆)、スモーク茄子、クレソン、ニンニクと発酵の香り付け
箸休 :白身魚(コルビーナ)の生ハム
3皿目:アングラ・デ・モンテ、カツオのタタキと山椒、ビーツ、サルシファイ(西洋ごぼう)、根セロリの黒酢漬け
4皿目:ポルチーニの炒め、ニョッキ、豚の脂身の薄切り、黄身とバターのソース
5皿目:椎茸、牛のカデラ(腰肉)のロースト、サツマイモ、カラードグリーン、ピクルス
6皿目:デザート3種から一つを選択。この日のキノコを使ったデザートは甘く煮たトランペット茸とビスコッチョのココナツミルクフォームがけ。その他は、アイスクリーム、チーズ各種。
各皿は一つのキノコをメインに、それを引き立てるために様々な食材と丁寧に組み合わされており、特に一皿ごとに「香り」のデザインを意図しているのがよく分かる。例えば、2皿目は、日本人にとっては馴染みの深い焼き茄子のようなスモーク臭とごく微かなニンニクの香り、全体を包む柔らかい発酵のアロマ、そしてアクセントとなる爽やかなクレソンの香りが、ニスカロの風味をより立体的に浮かび上がらせている。
またコース後半はポルチーニから椎茸へと、より香りや味が強くなるように設定されているなど、コース全体のデザインはよく考えられており、完成度が非常に高い。
ソースは基本的にバターを使ったものが多いのはフランス料理を思わせるが、食材やスパイスはアジアのものも多く使われており、まだ32、33歳という若い二人のスペイン人の料理パブロ・ロンカルとグスタボ・グレコの新しい食材に対する探究心と料理に対する情熱、そして豊かな感性を存分に感じさせてくれる。
キノコ料理以外の二皿もオリジナリティがあって、かつ満足度が高い。特に白身魚の生ハムという名前で出てきた、コルビーナの塩漬けの薄造りに乾燥セロリのパウダーとフルーツを乗せたものは、シンプルなのに、塩漬けにして旨味を凝縮したコルビーナ、塩味とフルーツのフレッシュな甘み、セロリパウダーの香りと、素晴らしいバランス。あまりの美味しさに思わず冷えたシェリー酒を注文させてもらった。冷たいマンサニージャとは素晴らしい組み合わせだった。
ちなみにワインは、白、赤、シェリー(マンサニージャ)、シャンパーニュが用意されている。ボトルで10ユーロ程度〜、グラスでも注文できる。
これから秋に入り、本格的な天然キノコのシーズンが到来する。個人的にも嬉しい発見だったこのレストランが、それらのキノコをどのような形でプレゼンテーションしてくれるのか、今から非常に楽しみだ。
キノコ好きならずとも、ぜひ一度 El Broteを訪れて、彼らのコースを味わってみてほしい。
※2015年いっぱいで閉店。
※2016年に新しい店舗で再営業するとの噂。
http://www.elbrote.es
営業時間:火-土:14:00 – 17:30, 21:00 – 0:00
住所:Calle Javier Ferrero, 8. 28015, Madrid.
電話:91 110 31 39 / 652 17 33 19
(予約は0:30 – 13:30、17:30 – 20:30 に電話にて。週末の夜は特に予約したほうが良さそう。)
最寄り駅:メトロ ALOFONSO XIII
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